
天使は奇跡を希う・感想
瀬戸内海にほど近い町、今治の高校に通う良史のクラスにある日、本物の天使が転校してきた。正体を知った良史は彼女、優花が再び天国に帰れるよう協力することに。幼なじみの成美と健吾も加わり、四人は絆を深めていく…。これは恋と奇跡と、天使の嘘の物語。
「私を天国に帰して」彼女の嘘を知ったとき、真実の物語が始まる。
七月隆文さんの作品は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」や「ケーキ王子の名推理(スペシャリティ)」を読んでいました。
ぼくは明日~、は実写映画化、ケーキ王子は漫画にもなっていますね。
賛否あるとは思いますが、私はこの作品がけっこう好きだなと思いました。
良いと思ったポイントを、感想とともに書こうと思います。
軽くネタバレしていますので、ご注意ください。
イラストは「田中将賀さん」
新聞に文春文庫の新刊が載っていまして、「どこかで見たことがある絵だ……」と思ったのですが、最初に思い浮かんだのは、あの花のめんまです。
「君の名は」の「田中将賀さん」と書いてあったので、逆に、「え?『君の名は』って『あの花』と同じ方だったの?」と、ファンの皆様に怒られそうな驚きをしてしまいました。
君の名は、も勿論見たのですが、あの花と同じということに全然気づいていませんでした。
田中将賀さんが、あの花のキャラデザの方というのも知らず、ようやく、天使は奇跡を希う、で全部繋がりました(笑)
そういえば、ケーキ王子でもorangeの「高野苺さん」が表紙を担当されていらっしゃいましたが、その時の流行の絵師さんを取り入れる、という出版社の思惑でもあるのだろうか。
優花と良史のイラストがあるので、頭の中ではふたりのやり取りは完全に表紙のふたりです。
成美はみつはっぽい感じかなあーとか、健吾はイケメンらしいのでてっしーっぽいけど、てっしーよりもうちょっとカッコいいかなあーとか(失礼)
やっぱり、ちょっと頭の中で田中将賀さんキャラデザの子たちが浮かびます。
それが良いか悪いかは、読み手によってちがうのでしょうけれど、私はむしろ表紙が気になって読んだ方です。
タイトル文字も可愛い。
見開きイラストからようやく始まるストーリー
前半は、優花と良史が今治の有名所を訪れたりと、聖地巡礼を意識した流れとなっています。(笑)
今治のタオル良いですよね!
優花に謎があるのは明らかで、いつ謎が出てくるのだろうか、と思って読み進めていますが、なかなか謎が出てくる気配がありません。
前半はちょっとだらだらしていて、つらいです。
優花は本当に天使なのか? 彼女の目的は、本当に天国へ帰ることなのか?
答えは3話目の終わり、中盤にしてようやく明らかになります。
奇跡を希うように、天を仰ぐ優花。
そのイラストが、ようやくこのストーリーが始まることを伝えているようでした。
3話目までは、プロローグと言ったところでしょうか。
優花視点へと話が移ると、話は一気に進み始めます。
後半が面白いと感じるのは、やはり前半がただただ日常描写が長く続いたからでしょうか。
しかし、後半を面白いと感じさせるのは、前半ありきだと思うので、構成としてこれで良かったのだと思わざるを得ません。
一ページの真ん中に、たった一行を書くことによって印象づける、という手法は、「文字で伝える」、という所からはちょっと離れているのかもしれません。
一般向けというよりは、ちょっとラノベよりでしょうか。
けれど、見開きの優花のイラストと、その一文によって、優花の叶えたい奇跡が、強く印象付けられたことは確かです。
幼なじみ4人
前半で仲を深めていく4人ですが、本当は最初から知り合いです。
優花のことを忘れていることによって、良史と成美が付き合っているのかなと思っていたのですが、どうやら、忘れる前からふつうに付き合っていたご様子。
優花からそう語られますが、ええ、意外だ……。なんでだ、ヨシくん、絶対ユーカのこと好きだよね……。
成美と良史が付き合っているというのも、ちょっと不自然な感じもするし、健吾に至っては明らかに成美が好きそうだし、と何となーく、受け皿が用意されている感じがしないでもない。
結果として成美視点の際に真相は分かるのですが、まあ、振られたと思ったから、成美と付き合ったってことだろうか……。それもそれで、良史はそれでよかったのか。(笑)
私としては、優花と健吾の、恋愛の生まれそうにない(笑)ふたりの小学生のようなやり取りも好きです。
やっぱり、優花と良史、成美と健吾の方がしっくりきます。
それにしても、全員良い子なのです。
いじめられてそうと思ったら…
優花は意識して明るいウザキャラを演じていたようですが、天使になる前はいじめられて不登校だったそうです。
優花は実は亡くなっていて、生前はいじめられていたとかだったのかしら、と思ってましたが、意外と当たってた。亡くなったわけではないですけど。
その不登校の理由も、意外とリアル。
都会に憧れ、地元を嫌うということを隠さなかった優花は、周りからいじめられる……というか、浮き始めるというか。
大人になると、田舎で土いじりとか、ゆったり暮らししたくなるのに(笑)、若者って何か都会に憧れるんですよねー。なんでかなー。
優花の場合は、まあ、良史のことがあったので、都会への憧れだけじゃないんでしょうけれど。
ご都合主義、でもそれが…
正直、天使やら悪魔やら、実は良史が亡くなっている、とかやら、設定としては、それだけで読むのをためらう方も出てしまいそうです。さらに、今回のラストは優花は良史の記憶を取り戻し、悪魔との賭けに勝って、何もかもうまくいく、という、素晴らしいご都合主義っぷりです。
あ、あと、健吾も成美とうまくいきそう?
でも、読後に嫌な気持ちになる小説よりは、すべてうまくいって幸せな気持ちになれる小説の方が好きです。
読んだあと、すっきりした気持ちになれます。
なので、ご都合主義だとしても、それが好きな方、むしろそれを望んでいる方には良い本だと思います。
感想まとめ
田中将賀さんのイラストが素敵。
ハッピーエンドが好きな方には良い本。
あんまり重たい話を好まない人向け。